動物病院 其の1
(大阪でのこと)

 ペットを飼うと、絶対に切り離して考えられないのが「動物病院」です。
はじめて動物病院のお世話になったのは、クッキーが来て3日目のこと。
元気そうにはしているけれど
元飼い主に一度も予防注射をしたことがないと聞いていたので
一度検診して貰おうと出掛けました。
飼いたいとは思っていたけれど
出会ってすぐに飼うことになると思わず、病院を探しておかなかったのは迂闊でした。
買い物の途中で見かけていた病院
そこなら便利そうだしそこへ行こう。

 車から降りて病院のドアを開ける前から
クッキーはガタガタ震えていた。
ドアを開けると、すごい匂い。
動物病院だもの、動物の臭いがしても当たり前か。
その時は初めてだったのでそう思った。
事情を説明して検診をお願いすると
「貰われて、すぐに病院に連れてこられたわけか?」とクッキーに向かって話された。
そう言えばまだ慣れてなくて、心細い思いをしてるのに、怖いところへ。
何てかわいそうなことを。
「すみません。」と言いながら
でもやっぱり病気になったらかわいそうだものと不満にも思った。
後から考えると
貰って病気があれば返す人がいるからかもしれないと気がついた。

 聴診器を何度かあててみて「大丈夫です。」
「え??血液検査とかしないんでしょうか?」
「しなくても大丈夫です。」
有り難うございましたと病院をでたが、何となく納得がいかない。
大丈夫と言われて納得いかないと言うのも変な話だけれど
やっぱり何となく納得いかない。

 何日かが過ぎたけれど、やっぱり納得行かない私。
ガンコなんです。
だって、大丈夫なら
この先も病気にならないように、しっかり検査して
予防注射した方がいいんじゃないの?
またまた何日か過ぎて、やっぱり他の病院に行くことにした。
散歩で知り合った人たちから、いいと教えて貰った病院へ。

 玄関のドアの前で、今度はクッキーも震えない。
ドアを開けても臭いが気にならない。
でも、先生はどうかなぁ。
なんだか私の方がドキドキ。
診察室に入ると、中には3〜4人の先生。
看護婦さんも大勢。
そこでは、私の希望通り、血液検査もして予防注射もしてくれた。
歯を診て、「きれいな歯だけど、歯石を取っておきましょうか?」
「耳はきれいですよ。」
こうでなくっちゃ、納得納得。
単純なんです。

 それからは、時々その病院のお世話になった。
クッキーは、もうそこが病院と知っているので
車を降りるときからガタガタ。
やっぱり怖いらしい。
大抵同じ先生に診ていただけたし
特に大きな病気をしてるわけでもないので、何事もなく月日は流れた。
あれは、クッキーが来て、1年ちょっとたった頃。
大阪から田舎(つまり今住んでいるところ)へ農繁期のお手伝いに帰ったときのこと。
お風呂上がりに、鏡に映った自分にびっくり。
何?これ。
黒いゴマのようなものがいっぱい肩から脇の方に。
触るとちょっと盛り上がってる。
え?ダニ?
そう思ってあわてて取ると、取った後が赤くなった。
さっきまでなんでもなかったのに、取ってからはやたらとかゆい。
クッキーだ!
お風呂から上がるとクッキーのダニ取り。
いっぱいいっぱい草むらを走らせた。
田舎だから、草むらにはダニがいっぱいいるんだなぁ。
その時は気楽に考えてた。

 大阪に帰ってから
何となく自分の耳が変なのに気づいた。
耳たぶの中を指で触ると、何となくだけれど
自分の耳の形じゃないような。
アッ、もしかして。
その変なところを、思いっきり指でむしり取ると
思い出しただけでぞっとするようなジャンボなダニ?
何日か経ったので、大きくなったのだ。
足にはしっかりと私の皮膚を抱いている。
これはおかしいと思った私は
そのダニらしきものをビニール袋に入れて病院へ。
 事件はここから。

診察室に入って、そのビニール袋を先生に見せると
先生はあわてて私の後ろに回り、診察室のドアを開けたんです。
すぐ帰れと言うことです。
「お金はいりませんから」と。
驚きながら診察室を出ようとした私の背中に一言。
「その犬、死にますよ。」
え?
振り向いた私の目の前でドアがバタン。

 私は泣きながら帰りました。
草むらが好きで、田舎に帰ると大喜びで走りまわるんです。
でも、走らせちゃいけなかったんですね。
そんな悪いダニがいるなんて知らなかったの、ごめんねクッキー。
車を走らせながら
悲しくて悲しくて、涙が止まりませんでした。
なんの処置も出来ないんですか?
予防薬もなかったんですか?
助けられないんですか?
死ぬのを待ってるんですか?

 病院へ連れて行けば、他のペットも犠牲になる。
でも、何とかしてやりたい。
私は気を取り直して、保健所に電話をかけました。
保健所では、そんなダニは知らないと。
図書室に出掛けました。
「バベシア症」と言うものらしい。
でも、専門書じゃないから、それ以上のことは分からない。
結局私はなんにもしてやれない。
悔しくて仕方ないけれど、抱いててやるしかない。
私の心配をよそに、クッキーは至って元気。
いつもと変わりなく飛び回っている。
その元気さがまた涙を誘う。

 こんな日を、何日過ごしただろう。
元気なクッキーを抱いて、叱られるのを覚悟で病院に行った。
先生はクッキーを見て(診てではなく)
「大丈夫だったみたいですね」と。
あのときの気持ちは、一言では言い表せません。
もちろん99%は大喜び。
大丈夫、つまり死なないと言うことですからね。
でも後の1%も、結構大きな1%。
飼い主の気持ちを考えないひどい扱いに、
悲しいとも悔しいとも、腹立たしいとも、何とも形容しがたい感情でした。

 今、その危ないダニがいっぱいの田舎に3年半前から移り住んでいます。


                                           2001年6月21日



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